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気球に碇をつけるみたいにしっかりと

気球に碇をつけるみたいにしっかりと

 「気球に碇をつけるみたいにしっかりと」は、村上春樹の長編小説『1Q84』の、BOOK1第15章章題。

 単行本の目次や章見出しでは、「第15章 (青豆)気球に碇をつけるみたいにしっかりと」に近似した体裁で記されている。(単行本では、青豆の2文字がデザイン化された“Q”の文字で括られている)

構成

 第15章「気球に碇をつけるみたいにしっかりと」は、単行本で28頁分程度。

 この章は、1行空行を置いた分割で分けられた8セクションから、構成されている。

 第1セクションは、単行本で1頁分強。青豆の食習慣と、肉体管理の習慣が記述される。

 第2セクションは、単行本で2頁半程度。青豆のつつましいライフ・スタイルの記述から入る。幼少時の簡素な信仰生活の記述を挟んで、大人になってからのライフ・スタイル描写に戻る。

 第3セクションは、単行本で2頁半程度。青豆の住居についての記述から入り、柳屋敷の老婦人との関係についても回想的に描写される。

 第4セクションは、単行本で2頁半前後。青豆が“クラブから戻ってきて、食事の用意をしているときに、電話のベルがなった。”。あゆみ?からの電話で、しばらく会ってないから、できたらちょっと会って話をしたいな、と言われると、青豆は食事の約束をする。

 第5セクションは、単行本で11頁分前後。あゆみから青豆に電話が入った日の翌々日。青豆は、約束したレストランのバーで、あゆみと落ち合う。食事をしながら、あゆみは「もし答えたくなかったら答えなくていい」と断りながら、青豆の異性体験などについて質問をし、自分の話もする。この会話の間に、青豆が好きになった男性についての話題も差し挟まれる。

 第6セクションは、単行本で3頁弱程度。食事の後、近くのバーに入った青豆とあゆみは、カクテルを飲みながら、レズビアン・ラブのことを話題にする。今日は寮に帰りたくないから泊めてくれない? と、いいだすあゆみに、「いいけど、変なことはなしだよ」と、青豆。

 第7セクションは、単行本で2頁前後。青豆の家に泊まるあゆみは、ベッドにもぐりこんで来る。青豆のパジャマの中に指を入れようとするが、青豆は拒む。「ごめん」と言って手を引っ込めるあゆみに、青豆は「寝付くまで抱いててあげるから」と言う。

 第8セクションは、単行本で2頁強。眠り込んだあゆみをベッドに残して、青豆は、ベランダに出る。空を見上げた青豆は、そこに二つの月が浮かんでいるのを目にする。

粗筋

 “青豆は日々の職に神経を遣った。”。“独自の食事メニューを作り、スポーツクラブでも求めに応じて指導した。”。ただ、禁欲的なメニューを守るだけでなく、たまに何かが我慢できないくらい食べたくなったら、肉料理でもなんでも、好きに食べる。

 “青豆はつつましい生活を送っていた。彼女がいちばん意識してお金をかけるのは食事だった。食材には出費を惜しまなかったし、ワインも上質なものしか口にしなかった。たまに外食するときには注意深くていねいに調理する店を選んだ。しかしそれ以外のものごとにはほとんど関心を持たなかった。”
 幼いとき、両親の方針で、信仰生活を送っていた青豆は、まわりの子供たちと同じような“普通の生活を求めて”、両親を憎むようになった。“一刻も早く大人になって両親から離れ、一人で自分の好きなように暮らしたかった。”。

 しかし大人になった青豆が発見したのは、自分がもっとも落ち着けるのは、禁欲的な節制した生活を送っているときだという事実だった。彼女が何より求めているのは、お洒落をして誰かとどこかに出かけることではなく、ジャージの上下を着て、自分の部屋で一人だけの時間を送ることだった。
(『1Q84』BOOK1第15章より)

 “環が死んだあと、青豆はスポーツ・ドリンクの会社を退社し、それまで住んでいた寮を出て、自由が丘の1LDKの賃貸マンションに移った。”
 “彼女が指定された男を別の世界に送り込むと、麻布の老婦人は彼女に報酬を渡した。”。“青豆は毎月の給料でさえ使いきれずにいる。それなりの蓄えもある。だからそんな金をまったく必要とはしなかった。彼女は最初に報酬をもらったとき、老婦人にそう言った。”。しかし、老婦人は、青豆がした「正しいこと」が、無償の行為であってはならない、と青豆に言った。

「あなたは間違いなく正しいことをしました。しかしそれは無償の行為であってはなりません。何故かわかりますか?」
「よくわかりません」と青豆は正直に言った。
「何故ならあなたは天使でもなく、神様でもないからです。あなたの行動が純粋な気持ちから出たことはよくわかっています。だからお金なんかもらいたくなという心情も理解できます。しかし混じり気のない純粋な気持ちというのは、それはそれで危険なものです。生身の人間がそんなものを抱えて生きていくのは、並大抵のことではありません。ですからあなたはその気持ちを、気球に碇をつけるみたいにしっかりと地面につなぎとめておく必要があります。そのためのものです。正しいことであれば、その気持ちがあれば何をしてもいいということにはなりません。わかりますか?」
 しばらくそれについて考えてから、青豆は肯いた。「私にはよくわかりません。でもとりあえずおっしゃるとおりにしましょう」
 老婦人は微笑んだ、そしてハーブティーを一口飲んだ。「銀行の口座に入れたりはしないように。もし税務署がみつけたら、これは何だろうと首をひねることになります。現金のまま銀行の貸金庫に放り込んでおきなさい。いつか役に立ちます」
 そうします、と青豆は言った。
(『1Q84』BOOK1第15章より)

 青豆が“クラブから戻ってきて、食事の用意をしているときに、電話のベルがなった。”。あゆみ?からの電話で、明後日の夜は空いてるか? と言われ。「空いてるけど、この前みたいなことをするつもりはないわよ。あっちのほうはしばらくお休みするから」と、青豆。しばらく会ってないから、できたらちょっと会って話をしたいな、と言われ、青豆は明後日は非番だというあゆみと食事の約束をする。勤め先のジムの会員が、オーナー・シェフをやっている乃木坂のフランス料理店へ行くから、「しっかりお洒落していらっしゃい」と、青豆。

 電話を切ってから、青豆は自分がその若い婦人警官に自然な好意を感じていることを知って、少し驚いた。誰かにそんな気持ちを抱くことができたのは、大塚環が死んで以来のことだ。もちろんそれは、環に対してかつて抱いた気持ちとはまったく違うものだ。しかしそれにしても誰かと豚理きりで食事をすること自体、あるいは食事をしてもいいと思うこと事態、ずいぶん久方ぶりだった。おまけに相手はよりによって原書空の警察官だ。青豆はため息をついた。世の中は不思議だ。
(『1Q84』BOOK1第15章より)

 電話の翌々日、青豆は、約束したレストランのバーで、あゆみと落ち合う。食事をしながら、あゆみは「もし答えたくなかったら答えなくていい」と断りながら、青豆の異性体験などについて質問をし、自分の話もする。この会話の間に、青豆が一人だけ好きになった男性についての話題も差し挟まれる。

 食事の後、近くのバーに入った青豆とあゆみは、カクテルを飲みながら、レズビアン・ラブのことを話題にする。今日は寮に帰りたくないから泊めてくれない? と、いいだすあゆみに、「いいけど、変なことはなしだよ」と、青豆。

 青豆の家に泊まるあゆみは、ベッドにもぐりこんで来る。青豆のパジャマの中に指を入れようとするが、青豆は拒む。「ごめん」と言って手を引っ込めるあゆみに、青豆は「寝付くまで抱いててあげるから」と言う。

 眠り込んだあゆみをベッドに残して、青豆は、ベランダに出る。空を見上げた青豆は、そこに二つの月が浮かんでいるのを目にする。“空には月が二つ浮かんでいた。小さな月と、大きな月。それが並んで空に浮かんでいる。大きな方がいつもの見慣れた月だ。満月に近く、黄色い。しかしその隣にもうひとつ、別の月があった。見慣れない形の月だ。いくぶんいびつで、色もうっすら苔が生えたみたいに緑がかっている。それが彼女の視野の捉えたものだった。”

 彼女は部屋に戻り、ガラス戸に鍵をかけ、カーテンを引いた。戸棚からブランデーの瓶を出し、グラスに注いだ。あゆみはベッドの上で気持ちよさそうに寝息を立てていた。青豆はその姿を眺めながら、ブランデーをすするように飲んだ。キッチン・テーブルに両肘をつき、カーテンの背後にあるもののことを考えないように努力しながら。
 ひょっとしたら、と彼女は思う、世界は本当に終わりかけているのかもしれない。
「そして王国がやってくる」と青豆は小さく口に出して言った。
「待ちきれない」とどこかで誰かが言った。
(『1Q84』BOOK1第15章より)

 物語内の今は、定かでない、4月は過ぎているはずのある日と、その2日後の夕食時〜深夜にかけて。

事項や登場人物

気球に碇をつけるみたいにしっかりと
 章題は、青豆が老婦人から、はじめての殺人の報酬を受け取るときに、老婦人が語ったセリフ(P.330)からの抜粋にあたっている。
事項や人名
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Last modified:2014/03/20 20:32:19
Keyword(s):
References:[青豆] [麻布の柳屋敷] [1Q84 BOOK1] [私たちが幸福になろうが不幸になろうが]
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